東京高等裁判所 昭和47年(ネ)50号 判決
次に、当裁判所も、所有者名の記載のある建物の表示の登記は、建物保護法第一条の登記にあたると解釈する。その理由は次のとおりである。
建物保護法第一条が、土地の賃借人が地上に登記した建物を所有することをもって、土地賃借権の登記に代わる対抗事由としている所以は、当該土地の取引をする者は地上建物の登記名義により、その名義人が地上に建物を所有しうる土地賃借権を有することを推知しうるからである(最高裁判所昭和三七年(オ)第一八号事件判決)。そうして、土地の取引をする者は現地を検分して建物の所在を知り、ひいて賃借権等の土地使用権原を推知するのが通例であるから(同昭和三六年(オ)第一、一〇四号事件判決)、その者がさらに建物登記簿を閲覧し、取引土地上の現存建物と同一と認められる建物の登記およびその所有者としての土地所有者以外の者の氏名の記載を見出すならば、その閲覧者は右建物所有名義人が土地使用権者であることを推知しうる道理である。これを推論すれば、土地賃借権の対抗要件としての建物の登記は、土地の取引をする者に建物の所有名義人の氏名を知らせるに足る記載があれば十分なのであって、建物自体についての権利の対抗要件としての登記と同一である必要はないのである。したがって、土地賃借権の対抗要件としての建物の登記が、不動産登記法所定の所有権に関する登記でなければならぬ理由はなく、建物の表示の登記であっても、表題部所有者欄に所有者の氏名の記載があれば足るといわなければならない。
形式の面からみても、建物保護法第一条の表現は「登記シタル建物」とあって、いかなる登記であることを要するかは規定されていない。もちろん建物の表示の登記の制度は、建物保護法制定のはるかのちに、家屋台帳登録制度に代わるものとして、不動産登記法を改正して採択されたものであるけれども、同法改正の際、あるいはその後において、建物保護法第一条の前記表現に関する手直しはない。したがって、建物の表示の登記が所有権に関する登記とひとしく建物登記簿に記載される登記である以上、同法第一条の「登記」に該当しないとはいえないのである。
また建物の表示の登記は、登記官の職権によってされることがあるので、この場合の表示の登記にも対抗要件としての効力を認めるときは、土地賃借人はみずから権利保全の手段を講じないのに対抗要件を取得する結果となることを認めざるをえないが、すでに登記がある以上は、第三者がこれを知りうる関係においては、その登記が当事者の申請に基くものか職権によるものかによって差異はないわけであるから(大審院昭和一三年(オ)第九二三号事件判決)、右のような結果を招いても異とするに足りないし、この結果が土地賃借人の保護に傾きすぎると考える必要もない。
さらに、建物の表示の登記に関しては、その所有者名の変更の登記および右所有者以外の者のする所有権保存登記は、ともに不動産登記法上厳格な手続を要求されているので、その反面の効果として、表示の登記の所有者名の表示は、いわば安定性をもつものとなり、土地(敷地)の取引をする者に対する通知的効果の面では、権利の登記と変りがないと思われる。
当裁判所は以上のように考えるのであるが、これを本件についてみると、本件建物が本件二筆の土地上にあることは前記のように争がなく、右建物について、控訴人の土地所有権取得の日より前に、土地賃借人であり建物所有者である被控訴人の被相続人斎藤鎌治を所有者と表示する建物の表示の登記があったわけであり、この登記は、控訴人をして斎藤鎌治またはその相続人が本件土地について使用権を有することを推知させるに足るものであるから、控訴人の本件土地賃借権を控訴人に対抗する要件は、これによって具備されていたということができる。
(近藤 田嶋 吉江)